「だから、急に姿を現したんですね」
「そうだ。楠木建設にゴマをするために、小金家一同が結託して行動を起こしたらしい」

何だか物凄く哀しい事実だ。父親が実の子を欲絡みのために売ろうとした。こんな事実、瑞樹には一生言えない。

私の気持ちが伝わったのだろうか――。

「瑞樹は奈々美と僕の子だ」

副社長が優しい眼差しで私を見つめる。

「――それは瑞樹が姉の子だからですか?」
「違う! お前が必死で守っている子だからだ」

その言葉が嬉しくって、ポロリと涙が一粒零れ落ちる。

「僕の愛を疑わないでくれ。今、愛しているのは奈々美だけだ」

副社長がソッと私を抱き締める。

「だから……それを事実にしたくて、新堂コンツェルンにまず業務提携の提案をした。しかし、両家の確執が邪魔をしてなかなか『善処する』と色よい返事が貰えなかった。特に慎司の疑り深さといったら――」

それは同情に値する。兄は強敵だっただろう。思わず頷く。

「それで、全てをぶっちゃけることにした。お前の母親も交えてな。現在、瑞樹の置かれている立場や奈々美に対する脅迫紛いのこととかをね」

そこで副社長がクッと唇の端を上げた。