「うわぁぁぁ」と我に返った会場が一斉に声を上げ、それと同時に凄い数のフラッシュが私たちを包んだ。

「ご紹介します。私、東條寺拓也の婚約者、新堂奈々美です」

「あれっ?」とあちらこちらから声が上がる。

「あれってエレベーターにいた可愛い子だよね?」
「ああ、あの控えめで優しい子」
「おお、天使を抱いていた」
「そう言えば、副社長のお気に入りとか言ってなかったか?」

声を上げたのは、どうやらエレベーターにいた記者たちのようだ。
『天使』の声に副社長の顔がトロン蕩ける。

それに気付いたのか、最初から予定にあったのか社長が瑞樹を抱いて現われた。そして、蘭子さんの横に並んだ。

「見ろ、あの天使だ!」
「すっげー、東條寺卓と蘭子、ツーショット写真が撮れるなんて!」

天使の登場と長々と別居しているセレブが公共の場に揃って出てきたことにより、記者たちの興奮は最高潮となる。

「記者の皆様にひと言お断り申します。瑞樹の写真を撮って頂いても結構ですが、必ずボカシを入れて下さい。大切な僕の子なので」

『僕の子』発言に再び場が湧き上がる。

「それと、撮影費は要りませんが、後日プリントした物を贈って下さい。よろしく」

「出た! 可愛い物好き」と記者から声が上がると、「私にもね」と社長が自分を指差す。