ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

それは桜子さんたちと楽しい夕食会をした四日後のことだった。

「だから、僕が瑞樹を引き取ると言っているんだ」

雨の中、瑞樹を保育園に送り届け、園庭を出たところで黒塗りのリムジンが突然泥を跳ね上げ脇に止まった。

そして、スモークのかかった窓が下り、そこに見たのは……憎んでも憎み足りない瑞樹のDNA上の父親、小金啓治の顔だった。

「貴方は姉を捨てた人、もう何の関係もないはずです」

瑞樹のことで話があると言われ、渋々車に乗るといきなり瑞樹を渡せと言ってきたのだ。

「申し訳ございませんが関係は大ありです。瑞樹様が啓治様のお子様だということは調べがついております」

彼は小金啓治の秘書だと自己紹介した。

「万が一、法的に争うことがあっても敗訴するのは貴女の方です」

確かに秘書が言うとおりだ。悔しさに唇を噛み締める。

「それに、貴女も助かるのでは?」
「――どういう意味ですか?」
「貴女は瑞樹様を引き取ったがために、貧しい暮らしを強いられていらっしゃる」

調べたというのは本当のことらしい。

「瑞樹様を啓治様にお渡しになれば、お家にも帰ることができ、大学にも復学して念願だった建築士としての道も開ける。好都合ではないでしょうか?」

淡々と言葉を発する秘書に、この人はもしかすると血の通っていないサイボーグかもしれないと思った。