ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

結局、あれから一度も副社長から連絡はなかった。
自分から出て行ったのに、もしかしたら……と僅かでも期待していた私は大馬鹿者だ。

彼は新堂の娘と知り、全てなかったことにしたのだろう。
当然だ。仕事には厳しいあの彼だ。そうするのは目に見えていた。

フルフルと頭を振り、副社長のことが書いてあるページを閉じる。そして、電源も切る。

今夜は疲れすぎている。こういう時は……と瑞樹の寝顔に目をやる。
そして、瑞樹の隣に潜り込み、小さな身体をギュッと抱き締める。

甘い匂いに突き刺さった棘がポロポロ取れていく。

「――瑞樹とこうしているのが一番幸せだよ」

こうやって元の生活を続けていたら副社長のことは忘れられるだろう――そう思いながらも抗う心を持て余す。それを真っ黒な闇に沈めるように、私は固く目を閉じた。

***

「山本、また一緒に働けて儂(わし)は嬉しいぞ」
「私もです」

就職活動はしているが、結局、九月の末までひとまず古巣に戻ることにした。やはり遊んではいられない。そして、新しい現場でまた常爺さんと一緒になった。

「何か、お前雰囲気が変わったな」
「そうですか?」
「ああ、柔らかくなったっていうか、女っぽくなったな」

そんなことを言われたのは随分久し振りだ。