『私も身近な人に否定的な言葉を浴びせられて、保護者失格なんじゃないかと思って死にたくなっちゃったもの』

桜子さんの激白にギョッとしていると、『現に育児ノイローゼから鬱になって自殺する人もいるみたいよ』と溜息を零す。

妊娠、出産、そして、育児。母親は子どものために、それまでとは違う生活を送ることになる。自分を取り巻く環境の変化に気持ちがついていかない人もいるだろう。私だって、瑞樹との付き合いはたった二年だが、生活は激変した。

『でも、こんな風に悩みを共有できるお友達がいて良かったわ。それだけでも気分がスッキリするもの』

確かに桜子さんの言う通りだ。周りの理解と思いやり溢れる態度一つで気持ちが晴れ、前向きになれる。

『何かあったら何でも話してね』

こんな風に……。

そうだ、私一人じゃない。保育園の先生も、『いやいやは成長の一環なので、神経質にならないで大らかな気持ちで乗り越えて下さい』と仰っていた。

そんなことを思い出していると……。

「たぁぁぁぁ君! たべるぅぅぅ! いやぁぁぁ!」

はぁ? 副社長を食べる?

「カレェェェ、たべるぅぅぅ! いやぁぁぁ!」

なんにつけても言葉の最後はとにかく「いや!」だ。
瑞樹ブームということにしておこう、と溜息を零しながら単語を並べてみる。

要するに瑞樹が言いたいのは『嫌だ、カレーはたー君と食べる』だなと理解するが、それはできない相談というものだ。

「そうだ、瑞樹。食後にデザートのプリンがあるんだよ。だから、カレー食べちゃおう」

プリンのところで一瞬泣き止んだ瑞樹だが――恐れ入谷の鬼子母神、さらに大声で泣き出した。

どうやらプリンでまた副社長を思い出したみたいだ。