「瑞樹の物ばっかりじゃない」

玩具に洋服、ベビーチェアーに子ども用のシャンプーなどの日用品。

「こんなの持って帰ったらアパートが瑞樹の荷物置き場になっちゃう」

さりとてここに置いてはおけないだろうと思いつつ、あっ、でも――。

「副社長が結婚したら必要になる物ばかりだ。瑞樹のお古になっちゃうけど……やっぱり置いていこう」

ズンと胸に錘を抱えながら仕分け作業を始める。

「よし、これでいいか」

小一時間ほど経ち、まず第一弾の荷物を運び出したはいいが……。
長年住み慣れた懐かしいアパートの一室なのに……どうしたんだろう?

部屋に入った途端、寒々しさを感じた。
ここは瑞樹と私の温かな場所だったはずなのに……。

言いようのない淋しさが胸に広がり、ぺたんと床に座り込む。
どうしよう……副社長との生活が楽しすぎた。消せない。

夢なら目覚めた後で楽しい余韻に浸れるのに……。
現実は思い出というものが胸の中を占領して苦しくなる。

こんなことなら出会わなければ良かった……。
そんな後悔まで生まれ、自分が嫌になる。

知らず知らずのうちに零れた涙が床に小さな水たまりを作る。

「――大丈夫。私には瑞樹がいる」

自分に言い聞かせるように呟き、掌で床の涙を拭って立ち上がる。そして、もう一度、今度はハッキリ口にした。

「私は大丈夫!」