ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

「そう? だったらよかった」

桜子さんが安堵の息を吐く。

「自分自身の幸せから一度目を背けると、自分が本当は何を求めていたのか分からなくなってしまう人が多いの。幸せの迷(まよ)い子っていうのかしら?」

――迷う……その通りだ。堂々巡りの思いが私を立ち止まらせている。

「貴女にとっての幸せが何か分からないけど、もし、迷路に迷い込んでいるようなら、早く出口が見つかるといいわね」

出口……私自身の幸せって? 考えても今は何も思い浮かばない。

「あっ、でも……もしかしたら、案外側にあるけど気付いていないだけかも……」

桜子さんが意味深に笑う。

側にある幸せ――副社長といる空間。それが頭に浮かび慌てて頭を振る。
ダメダメダメ! それだけはダメ!

茉莉乃さんが……おそらく彼女は私の秘密を知っている。だったら副社長にバレるのも時間の問題だ。

だから――夢を見てはいけない。
幸せ云々より、今はそちらをどうするか、優先的に考えるべきだ。

***

桜子さんと別れてマンションに戻ると、瑞樹は遊び疲れたのか寝てしまった。夕方だというのに……。

静かなキッチンで夕食の支度をしながら桜子さんとの会話を思い出す。それと同時に兄の口癖を思い出した。