ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

「貴女の本当の姿をね」

私の顔色が変わったからだろうか? 茉莉乃さんが嬉々とした笑みを浮かべる。とても楽しそうだ。

「私の口から拓也さんに伝えてもいいのよ」

でも、その目は獲物を追い詰めるような眼だ。

「それが嫌なら」

茉莉乃さんの声がいきなり変わる。

「さっさと出てお行きなさい!」

まるで、任侠映画の姉御が啖呵をきっているように見えた。

「分かったわね。今日はそれだけ言いに来たの。じゃあ、また近いうちに」

茉莉乃さんは言いたいことだけ言うと、満足したのか私の返事も聞かず踵を返し意気揚々と洗面所を出て行った。

近いうち? また会いに来るということだろうか?

彼女の姿は洗面所から完全になくなったが、香りはまだ漂っていた。その残り香が最後の気力を奪った。

崩れ落ちそうになる身体を支えるように洗面台に両手を着く。

「――私が何者か知っているような口ぶりだった。まさか……」

知っているのは蘭子さんだけだ。
まさか、蘭子さんが茉莉乃さんの秘密を暴露したの?

でも……別れ際に彼女は『何があっても信じて』と言った。そんな蘭子さんが私の秘密をバラすはずがない。興信所でも使ったのだろうか? それはあり得る。

堂々巡りの思いを昇華できず、モヤモヤを抱えながらようやく瑞樹の元に戻ったのはそれから五分ほど経ってからだった。