ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

リラックスし過ぎたのか滅多に自分のことは語らないのに、語りすぎてしまったようだ。気を遣われるのは余計に辛い。

「そうね。瑞樹君を見ていれば分かるわ。大切に育てられたんだって。自分の子でもないのに、偉かったわね」

――こんなことを他人から言われたのは初めてだ。まして、同じように子育てをしているお母さんに……。

鼻の辺りがツンとして、慌てて誤魔化すように、「すみません。お行儀が悪いんですけど、ちょっとお手洗いに行ってきます」と言ってそそくさと席を立った。そして――。

洗面所でバシャと顔を洗いハンカチで顔を拭いていると……。
ん……? 甘ったるい匂いに鼻が反応する。

この匂い……どこかで?

匂いに反応してハンカチから顔を上げた途端、「あっ」と声が漏れた。
楠木茉莉乃さん! 彼女が斜め後ろに立っていたのだ。

「奇遇ね」

躊躇いも見せず、話し掛けてくる。

「ここには何を?」
「――友人とケーキバイキングに来ました」

答える義務はないが、礼儀知らずな年でもない。きちんと答える。
「ああ」と茉莉乃さんにも分かったようだ。

「あの子連れスペースね」

確かにそうだが、何となく彼女がそれを口に出して言うと嫌味っぽく聞こえた。