ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

副社長が鏡越しに鋭い眼で睨む。

「分かっています。出て行くときはきちんと挨拶をしてから出て行きます」
「だから……」

そんな意味で言ったんじゃないということぐらい私にも分かっている。
そこにピーンポーンとチャイムが鳴る。

「ほら、剣持さんのお迎えですよ」
「全く!」

副社長はブチブチと口の中で何かを呟きながら玄関に向かう。
その後を私も付いていく。

「おや? 山本さんは……」

ドアの入り口に立つ剣持さんが不思議そうな顔をする。

「今日はお休みです」

「ああ」と剣持さんの顔が明るくなる。

「そう言えば、今日は瑞樹君の保育園に行かれるんでしたね」
「はい」
「僕も保護者会というものに参加したかったのに……」

副社長が不服そうに私を見る。

「何を仰ってるんですか! 土曜日ですが、今日は新社屋のラストスパートをかけるために視察に行かれるんでしょう?」

「それはそうだが……」と副社長は口を尖らせながらも、「せめて瑞樹に行ってきますの……」と言ったところで、「無理矢理起こさないで下さい!」と彼の言葉を一刀両断する。

時刻は午前六時。

「そうですよ。いつもより早いお出掛けなんですから」

剣持さんも私の肩を持ってくれる。いい人だ。