「そもそもそれが全く分かりません。どうして婚約者になっちゃったんですか? あれはゲイを誤魔化すためだったのでは?」

「きっかけなんてどうでもいい。俺はお前たちと別れたくない」

呆れた! 別れたくないから結婚するって、メチャクチャじゃない。

「愛情がない結婚なんて私はしたくありません」
「愛情ならたっぷりある」

確かに、副社長の瑞樹への愛情はたっぷりある。私に対する慈悲っぽい愛情も……でも、そこには男女の『愛』みたいなものはない。

「愛と愛情は似て非なるもの……」
「ん? 何だって?」
「――とにかく、副社長の足が完治したらここを出て行きます」

ソファーから立ち上がると「おやすみなさい」と言ってリビングを出る。
背中の方で副社長が何か言っているが無視だ。

瑞樹の眠るベッドにソッと入り、その身体を抱き締める。
甘い香りが胸に空いた小さな傷にしみしみと染み込んでいく。

「瑞樹はお薬だね」

この子の存在がいつも私を癒やしてくれる。
この子のためにも間違った決断をしてはいけない。

たとえ私が副社長が好きでも、愛のない結婚は最終的に瑞樹を不幸にする。私は流されない――そんなことを思いながら瑞樹を抱いて眠りについた。