母さんと、ちょうど仕事から返って来た父さんを引き連れて元の場所に戻る。リンも女の子も無事穴から脱出し、一先ずまた家に帰ることになった。
女の子も一緒に。
家までの道のり、女の子は、“ミハナ”と名乗った。繋いだ手が、少しだけ…震えていた。
泥だらけの服を母さんが洗濯してくれる間、リビングであったかいココアを二人で飲んだ。
ミハナは、ココアは初めてだと言っていた。甘いココアにミハナの頰がパッと色付く。それがとても綺麗で、見惚れてしまった。
何故あんなところにいたのか聞くと、ミハナはたどたどしくも一生懸命に説明してくれた。
家には今お母さんと、知らない男の人がいて入れないこと。
いつもの空き地に行くと猫の声がして、穴から出られなくなった猫を助けようとしたら、自分も落ちてしまったこと。
落ちたとき、膝と右肩を打ったこと。
怖くて、寂しくて、穴の中で少し泣いてしまったこと。
リンが、その涙を舐めて慰めてくれたこと。
父さんと母さんと3人で、ただ少女の話に耳を傾けていた。ポツリポツリ、話す少女の目は伏せられていた。長い睫毛が影を作り、泣いているようで胸が痛む。
『そうか……』
ミハナの話が終わって、父さんが一言そう言った。他になんて言っていいのかわからない、沈黙というものを吐き出したような低くて重い声だった。
『ミハナちゃん、今日はうちに泊まっていきなさい』
その言葉に、えっ…?と声が二つ重なる。ミハナと俺のだ。
『リンの恩人だからね。家にはうちから連絡しておくよ。もちろん、嫌なら君をうちまで送って行くよ』
父さんが立ち上がり、ミハナの元に行くと、膝を折って優しくそう言った。
ミハナは、思いがけない申し出にキョトンとしながらも父さんを見つめ返す。


