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可愛い子だと思った。
嫌な顔ひとつせずにニコニコと仕事をする姿は、とても好感が持てた。
同期であり同じ部署に配属されたこともあって、よく話したりもした。


俺はエンジニアを希望して入社したが、配属先はエンジニアとはかけ離れたヘルプデスク的な業務だった。
もの足りなさを感じ、いつしか転職を考えるようになった。
大学で情報システムを専攻していたとはいえ、エンジニアとしての実務経験はないに等しい。
要するに、未経験での転職となる。
未経験で転職するには早いに越したことはない。

しかし、在職しながらの転職活動はなかなか大変なもので、何度もめげそうになった。

「飯田くん。」

そんなとき、彼女が名前を呼んでくれる声がとても心地よかった。
温かなものにふわりと包み込まれるような感覚を覚えて、人知れず癒されていた。

それが恋心だと気付いたのはいつだっただろうか。

だからと言って今すぐ恋人になりたいとか、そういう気持ちは起きなかった。
いや、無意識のうちに考えないようにしていたのかもしれない。
とにかく、将来にかかわる転職が優先だ。
恋愛をしている場合ではないのだ。

だけどそれはたぶん、彼女が近くにいる今の状況に甘んじていたのだと思う。