驚きのあまり固まった私に、「詩織?」と心配そうに顔を覗き込んでくる。
はっと我にかえって、

「わ、私でよければお願いします。」

と返事をした。
妙に恥ずかしくなってしまって、頬に熱を帯びるのがわかる。

「ごめんね。本当は指輪とか用意できればよかったけど。今言いたくなった。こればっかりは詩織に先を越されるわけにはいかないよね。」

「何も先越してないよ?」

飯田くんの言葉に、私の頭の中は疑問符でいっぱいになる。

「いいパパになりそうだなんて、そんなプロポーズめいた言葉を聞かされたら、焦るよ。先に詩織に言わせるわけにはいかないって。」

そういえば、迷子の女の子に対する対応に感動したあまり、そんなことを言った気がする。

あー、そっか、それって聞きようによってはプロポーズになるのか。

……って、しまった。
私ったら何て大胆な発言をしてしまったんだ。

「それから、今日のワンピース、よく似合ってるね。」

不意打ちだよ。
無防備なときにさらりとそういう胸キュンな言葉を言うんだから。

恥ずかしくてイルカに顔を埋めながら「ありがとう」と言うと、くすりと笑う気配があって、肩を引き寄せられた。

全然ロマンチックでもなんでもないのに、嬉しくて仕方がないのは、彼のことが大好きだから。
彼の優しさに包まれて、一生ついていこうって思った。

私も彼にたくさん優しさを与えたい。
これからも、よろしくね。


【END】