深海の魚コーナーに来ると照明がひときわ暗くなった。
スロープになっているのに気付かず前に転がりそうになってしまう。

「大丈夫?暗いから気を付けないと。」

そう言って、自然と手を繋いでくれる。
手を繋ぐのなんて初めてじゃないし、付き合ってもう二年にもなろうとしているのに、そんなことでさえドキドキしてしまう。
いつも優しいけど、ふとした瞬間に見せるその優しさが、ひときわ胸をときめかせるのよ。

深海の魚コーナーが終わって明るいエリアに出るところで、小さな女の子が泣いているのに気付いた。
泣きながらあっちへ行ったりこっちへ行ったりキョロキョロしている。

「飯田くん、あの子もしかして迷子かな?」

私の視線に、飯田くんが合わせる。
飯田くんはおもむろに近付いて行って、膝をついて女の子の目線と同じ高さに合わせてから「どうしたの?」と尋ねた。
私も慌てて膝をついて女の子を怖がらせないようにする。

途切れ途切れの単語からやはり迷子だと確信した私たちは、一緒にママを探そうかと手を引きながら、近くのスタッフへ引き渡した。
女の子を発見した経緯を、飯田くんは的確に説明する。
私は隣で頷いていただけだ。
あまりの頼もしさに見惚れてしまって、感動すら覚える。