遠慮の塊。

考えてみれば確かにそうかもしれない。
飯田くんに嫌われたくなくて、聞き分けのいい子を演じていた。
飯田くんの夢を心から応援しているけど、自分の寂しさは隠してきた。

本当はもっと甘えたい。
我が儘を言いたい。

飯田くんはどうかな?

飯田くんも遠慮の塊だと春香は言った。
仕事人間だけど、会えばいつも優しい眼差しで見てくれる。
怒った姿なんて見たことない。
いつも私を優先してくれて、大きなあったかい手で包んでくれる。

「……春香。飯田くんに会いたい。」

「はあ?私に言ってどうするのよ。じゃあもう切るから、今から電話しな。じゃあね!」

「ありがと……。」

と言葉も聞かずに、さっさと電話は切れてしまった。

時計は夜の9時を指している。
明日も仕事だ。

今から会うには遅すぎる時間だが、私は彼の電話番号をタップした。