カバンの中のスマホが震える。
きっと飯田くんからだなと思い、大きな溜め息と共に取り出した。

【遅れます】

たった一言だけ。
らしいといえばらしいのだけど、せめて頭に「ごめん」だとか付けてくれたらこちらも気持ちが収まるのだけど。

真面目で優しくて頼りになって、ちょっと寡黙だけど話せばユーモアもあって楽しい。そんな同期の飯田くんを好きになった。
ただ見ているだけでいいなんて想いをひた隠しにしていたけど、突然の飯田くんの転職。
送別会をやったとき、もう会えなくなるかもと思ったら胸が苦しくなって、お酒の力を借りて勢いで告白したっけ。

「飯田くんが好きです。よかったらお付き合いしてください。」

「…よろしくお願いします。」

まさかのOKに、涙が出るほど嬉しかった記憶。

なのに…。

いつもデートの誘いは私から。
電話もメールも私から。
仕事人間な飯田くんは、毎回のように遅刻。
わかってる。
今の仕事を大切にしてること。
転職して、やっと夢を掴んだことも教えてくれた。
意志が強くてしっかりした考えを持っていて、そういうところは本当に尊敬に値する。

だけど。

私のことは大切じゃないの?

飯田くんの仕事に焼きもちを妬いてしまう。
我ながらバカだなぁとは思う。
でも、でもね。
私だって飯田くんの彼女なんだから、大切にされたい。
好きだって言ってくれたことなんて、あったかな?
ないんじゃない?
いつも私からの一方通行な想い。
子供みたいに拗ねてしまう私は、たぶんまだ子供なんだと、…思う。

飯田くんを待ちながら、空を仰ぐ。
私、飯田くんにとって何なんだろう。
飯田くんは私のことをどう思ってるの。
付き合ってもう1年。
聞きたくても聞けない臆病な私。
考えれば考えるほど辛くなってきて、視界がぼやけるのを必死に我慢した。