暗いムードがチーム内を包む。
「で、でもさ。実際に専属マネージャーとかあり得なくないか。今井とかいう奴だって本気で言ってねぇだろ」
 小島は小島で気を使ってるのだろう。
この重い空気を何とかしようと、引きつった笑顔で場を盛り上げようとする。
「そう、そう。負けたら負けたで、そんな約束は反故しちゃえばいいのよ」
 さっきまで勝つ、勝つ、言っていた桜井さんもチームリーダーとしてみんなをまとめるのに必死だ。
 話している内容が『どうやって勝つか?』から『負けたあとどうするか?』に変わっているけど、それはもうしょうがないのかもしれない。
 僕も最初は、あの憎たらしいスポーツ馬鹿を打ちのめしてやろうと熱くなっていたが、時間が経つにつれて現実的な思考が戻ってきた。
 いくら同じ年でも、プロ野球と草野球ぐらいの差はありそうだ。もしかしたら、メジャーリーグくらいかもしれない。
 そんな奴ら相手に勝つ方法があるなら誰か教えてほしい。それでなければ、天使とでも悪魔とでも契約したっていい。
「ふっふっふっ、どうやらお困りのご様子だな。玲とゆかいな仲間たちの諸君」
 どこからともなく聞こえてきた声の主は、まさに悪魔、いや閻魔大王クラスの、もちろんあの先輩だった。
「全国3000万人の女子高生女子大生、OL、主婦の皆様、大変長らくお待たせいたしました!」
 誰も待ってません。
「ピンチの時にポリッと現れて、ノサッと解決!」
 なんだ、その擬音は。
「赤い流星こと相田大成、ここに推参!」
と、相田先輩は突如、購買部のカウンターの上に現れたのだった。
 できれば、そのまま流れていってほしい。
「とおっ!」
 無駄に高く飛び上がってから地面に降り立った先輩は、唖然としている僕たちの前に来て、一人納得したように
「うん、うん。みなまで言うな。わかっている」
と頷いた。
「相田先輩、授業はどうしたんですか?」
 とりあえず遠藤さんが普通に気になることを聞くと
「3年は今日一日中、自習なのだ。だから心配はいらないぞ、玲」
と、得意満面に答える。