演っとけ! 劇団演劇部

 やっぱり無理だ。
 僕は痛みを堪えつつ、目を逸らしたら負けだという動物番組のことを今さら思い出していた。
 うずくまる僕に
「見事だった」
と、利一君が手を差し伸べた。
 彼は最後まで僕のハッタリに気がついてくれなかった。
 気付いてくれていたら、お腹の痛みも半分で済んだかもしれない。でも、お腹を押さえながら、みんなのところに戻ると遠藤さんが優しく迎えてくれた。
「格好よかったよ」
 その言葉だけで、僕は充分です。
「見直しましたよ」
 意識を取り戻していた洸河先輩も褒めてくれた。
 嬉しいけどこれで僕たちには、後がなくなったのだ。
 頼みの綱は、相田先輩しかいない。
 よく考えてみれば、先輩がまともに戦っているところを見たことがなかった。もしかしたら、本当は強いのかもしれない。身長だって高いし、自らこの戦いを挑んだのだ。
 それなりに勝算があるに違いない。
「あとは任せな」
 先輩は屈伸をしながら、僕たちに力強くそう言った。
「大将、前へ!」
 主審の言葉で、相田先輩が前に出て利一君と向かい合う。
「やっと出てきましたね」
 利一君もこの時を待っていたのか、最初から本気を出す構えだ。
 勝つにせよ負けるにせよ、この一戦で勝負が決まる。
 会場内に重い雰囲気が圧し掛かった。
 主審が手を大きく振り上げ
「始…」「あいたたたた!」
 今まさに最後の試合が始まろうとした瞬間相田先輩が頭を抱えてしゃがみ込んだ。
 利一君はおろか、ギャラリーも、僕たちも呆然としている。すると、相田先輩は
「すいません。急に頭が痛くなったんで、代理の選手を出していいですか?」
と、とんでもない事を主審に発言した。
「それは、一向にかまわないが…」
 この人は何を言い始めたのだ。