演っとけ! 劇団演劇部

 僕は体勢を立て直しながら、利一君の様子を伺った。彼は小刻みに左右に飛び跳ねながら、こちらを警戒している。
(警戒?)
 そうだ。彼は今、間違いなく僕に攻撃をすることを躊躇している。偶然とはいえ二度も彼の攻撃を避けた僕に、彼は警戒し始めているのだ。
さっきまでの相田先輩の強気な態度は、僕が何か武道をやっているものだと、利一君が勝手に勘違いしてくれているようだ。
これは、ある意味チャンスかもしれない。
「あちゃあ!」
 とりあえず僕が相田先輩の真似をして奇声を発し、両手を適当に振り回すと、利一君は体をビクッとさせて距離を置いた。
(いけるかもしれない)
もう一度彼の呼吸を読んで、飛び込んできたところを避けつつ、カウンター攻撃。
 これしかない。
 しかし今の僕の奇声によって、最初のときよりも利一君と距離が離れてしまっていた。
 これでは呼吸を読むことができない。
 余計なことしなきゃ良かった。
「エイト! 心の目だ! 心の目で見ろ!」
 更に調子に乗った相田先輩の叫び声が聞こえてくる。
(心の目か…)
 心眼ってやつだ。
 僕も何かの漫画で読んだことがある。ってそんなことできるわけないでしょ。
いや、でも待てよ。目の見えない人は他の器官が発達するというのも聴いたことがある。
 実際、何かに耳を済ませるときは目を閉じるものだ。あれは聴力に集中させるために視力の機能を止めているわけだ。
 僕は、ゆっくりと目を閉じた。
 集中しろ。
 利一君の呼吸を聞き取るんだ。
 僕の耳から色々な声や音の情報が入ってくる。
 ギャラリーの歓声が聞こえる。
 相田先輩のやじも聞こえる。
 そして、遠藤さんの声援。
「エイト君!」
 それから、僕のお腹に強い衝撃。
「一本!」
(いたぁい!)
 僕は、前のめりに崩れ落ちた。