演っとけ! 劇団演劇部

「利一君。僕らは遊び半分で演劇をやるつもりはないよ」
 僕は先輩を床に押さえつけながら、利一君に言った。
「真面目に演劇の面白さを、みんなに知ってほしいんだ」
「演劇の面白さだって?」
 鼻で笑う彼に、僕は真剣な面持ちで言葉を続ける。
「そう。面白いんだよ、演劇は。それをみんな知らないから、僕らはそれを伝えたい。利一君がやろうとしていることと同じなんだ」
 僕は利一君がやろうとしていることの根底に共感を持たせようとした。多分、彼も今までカンフーの面白さを誰かに伝えたかっただけなのだ。
「あいや、まさしくその通り!」
そして、相田先輩が僕の話に合わせ、利一君の前に出てきた。
 僕が押さえつけていたのは、いつの間にか洸河先輩に入れ替わっている。
(一体どうやって?)
 混乱する僕をよそに相田先輩はいつもの調子で語り始めた。
「1973年12月。ブルース・リーの『燃えよ! ドラゴン』が初めて日本で映画公開され、国内全土で空前のカンフーブームが巻き起こった。その後もジャッキーチェーン、サモ・ハン・キンポーにユンピョー。チャウ・シンチーなど多くのカンフーアクションスターがその素晴らしさを映像に残している。リー師匠は詠春拳の達人でありながら、それに慢心することなく、多くの人間に感動を与えてきたのだ。貴様と同い年のころには、ボクシングの異種格闘技戦までして、詠春拳を広めていたんだぞ」
 いつの間にブルース・リーが相田先輩の師匠になったのだろう。
「今の話って、どこまで本当なんですか?」
「さぁ?」
 僕の質問に洸河先輩が頭をひねる。相田先輩のお説教は、まだ続いていた。
「それに比べて、貴様はどうだ! こせこせちまちまと町中の道場で腕を磨いているだけではないか! そんなことで21世紀のブルース・リーになれるとでも言うのか!」
 おお、相変わらずいい加減なことを言わせたら右にも左にも出るものはいない。
 利一君も悔しそうに口をつぐみ、認めざるを得ない表情だ。