演っとけ! 劇団演劇部

「僕の一体どこが、かわいそうだって言うんですか」
 そう言った利一君は、傍観している僕らのほうに目を向けて
「そこの人たちも同じ用件なら、早くこの人を連れて出てってください」
と冷たくあしらった。
 同じ用事のはずだったけど、違う用になっている気がする。
僕がどう切り出していいのか悩んでいると遠藤さんが先に口を開いた。
「突然こんなところまで押しかけて失礼だとは思うのですけど、せめてお話だけでも聞いてくれませんか?」
 こういう時にまともな応対をしてくれる遠藤さんは、ありがたい。
「君は?」
「1年C組の遠藤です。実は私たち、うちの学校で劇団を作ろうとしていて…」
 遠藤さんが利一君に説明している最中、僕と説明担当のはずだった洸河先輩は、むやみやたらと戦おうとする相田先輩を抑えるのに苦労していた。
 相田先輩を後ろから羽交い絞めにしながら二人の様子を見てみると、利一君が顔を真っ赤にしながら話を聞いていた。
女子に免疫がないところも、実に拳法家らしい。
遠藤さんの説明がある程度終わりに近づいたころ、僕らも相田先輩との格闘でクタクタになっていた。
「誘ってくれたのは、ありがたいが…」
 利一君は、今まで僕らの勧誘を断ってきた何人かの生徒と同じ出だしで語り始めたが
「私には中国拳法を多くの人に伝来する使命があるのです。劇団に入って遊んでいる暇はありません」
と、理由は今までにない奇抜なものだった。
 どうして日本人の一高校生にそんな使命が課せられたのかは気になるところだけど、今はそんなことを聞いているときじゃない。
 休み時間に御手洗君が言っていたのだけど、彼のような『動ける役者』がいれば、劇団全体の幅も広がるし、見た目のインパクトもある。
 わかり易いアクションは、大衆を惹きつけ易いのだ。相田先輩は面白半分で勧誘していたのかもしれないが、確かに彼が入ってくれたら面白いことになるかもしれない。それだけにここで断られることは痛手だ。