僕も相田先輩の言葉に引き込まれそうになったけど、よくよく考えたら洸河が今日演劇を見たのは僕らの作戦だったのだから、偶然ではなく必然なのは当たり前なのだ。
「確かに彼らのしたことは、君のプライドを傷つける許されざるものだ。しかし、そうまでしても君を引き入れたいという気持ちの発露だと思っていただけないだろうか」
「うぅむ」
 相田先輩の演説にも力が入り、光河も悩みこんでしまっている。
「もちろん彼らも君が同意してくれた後には全てを話し、謝罪するつもりだったのだよ」
 ウソだ。これは絶対ウソだ。
 計画のときにそんな話は一切出なかった。
 相田先輩にとって『騙す』ことが今回の作戦のメインだったはずだ。
「そして何よりも普通の男ならば怒り狂うところを、寛容で美しい心を持ち合わせている光河くんなら許してくれるに違いないと、僕らは信じていたのだ」
 ある意味そのメインからは外れていないまま話は進んでいるようだ。
「…美しい、心」
「そうだ。君は見た目が人より良いだけに、その心までを見てくれる人が少なかったのではないか?」
 洸河はなにやら涙ぐんでいるようにも見える。
「本当の君の魅力は、その美しい中身であるはずなのに誰もそこまで見ようとはしない」
「そうです。そうなんですよ!」
 洸河は相田先輩の手をガッシリとつかみ、うんうんと力強く頷いた。
相田先輩は言い過ぎのような気もするが、確かに僕も彼に偏見の目を持っていた。
 キザで格好つけ、自分の容姿を鼻にかけ、女にはモテても男には人気がないつまらない人間だと。
 しかしさっきも言った通りこの人にはそれ以外にも十分な魅力がある。
 仮に洸河の顔が悪ければ、軽快なトークと社交性に先に目がいったことだろう。
 キザなキャラクターだって遠藤さんに手を出そうとしていなければ、面白く見ることだって出来る。
 見た目の良い男には見た目の良い男なりの悩みがあるということか。
「僕のことをこんなに理解してくれる人が学校にいただなんて…」