「まぁまぁ、洸河くん。彼らもちゃんと反省しているわけだし」
「なっ、相田先輩。あなたもいたんですか」
「悪気があってやったわけじゃないんだ。許してやってくれないか」
 というよりこれは、あんたが考えた作戦だろう。
「いや、上級生のあなたに言われたとしても僕の気は変わりませんよ」
 さすがの光河も上級生を立てる礼儀は心得ている。というより今日一日、洸河の行動を見てきてわかったことだけど、こいつは普通の人よりもずっと礼儀正しい。
 ファーストフードでも店員さんにありがとうと一言つけるし、レディファーストはもちろん、狭い劇場の中では周囲の人への気遣いも完璧だった。
 ただ見た目が良くて話が面白いだけ(それでも十分なのだけど)なら僕も遠藤さんに対して、そんな不安な気持ちにならなかっただろう。
 単に彼女に良いところを見せようとしている動きというより、自然に身に付いているマナーだったり礼儀だったりするのだ。ただこいつの場合はよりキザっぽく演出されていることは間違えないのだけど。
「そんなに怒るなよ。今日の演劇は面白かっただろう?」
「え、えぇ。それはそうですが、それとこれとは関係ないでしょう」
「面白い芝居が観られた。今日はそれだけでも意味のある休日だったはずだ」
「それが何だと言うのですか」
「人生において出会いとは才能だと思わないか? 人にも物にも芸術にも出会うべき時に出会う」
 才能という言葉にピクリとする洸河。
 どうやら悪い気はしていないらしい。
「人は時として運命という言葉をマイナスと捉えがちだが、良いものに出会うというのは偶然ではなく、必然。その個人の能力といっても過言ではない。洸河もそう思うだろう?」
「ま、まぁ確かに」
 それにしても今までの洸河ペースが嘘のように崩されていくのは、さすが相田先輩だ。
「我々は洸河くんの、その男とは思えないほどの美しい容姿ももちろんだが、何よりも中身のほうに目をつけたのだ。中身に惚れ込んでスカウトしてるのだよ」
「な、なるほど…」
 絶対に協力しないと言っていた洸河が悩み始めている。