遠藤さんに早く勧誘して欲しかったけど、そこは洸河の話術でなかなかペースを持たせてもらえない。
 学校での洸河はあれでもパワーを抑えているほうだったのだ。
あのアホは女を口説く技にかけて本当に天才的なのかもしれない。
 噂ではうちの学校に3人、他校に5人、社会人に2人も彼女がいるらしい。らしい、というのは本人も人数を把握していないという噂も同時にあるからだ。
 いけ好かないやつだけど、実際女子に人気があることは確かだ。
 そういうところでも洸河が劇団演劇部に入ることは重要な意味を持つ。
「それじゃ、そろそろ出ましょうか」
 そうこうしているうちに、最後まで洸河パワー全開で終わってしまった。
 作戦ではここで帰宅する予定だったのだが、このまま洸河を帰しては今日のあの散々の苦労と我慢が水の泡になってしまう。
 外へ出ると、もう日が暮れ始めている。僕と相田先輩はどこに行くかわからない二人の尾行を続けた。(というよりやっと尾行と言える行動になった)
 洸河は歩きながらも、ずっと何かしゃべっている。
 よくあれだけ話題が続くものだ。
 癪だけど、これは見習わなくてはいけないものがある。
 僕が遠藤さんといる時はほぼ彼女が話題を出して、それに僕が答える形になっていた。
 軽快な洸河のトークに遠藤さんも、時々演技とは思えない笑い声を上げていた。
 街灯がつき始めた頃、前にいる二人は大きな市民公園に入っていった。
 嫌な予感がする。
 ベンチに座り、缶ジュースを飲みながら話す二人は、遠めに見てもかなりいい雰囲気を出している。
 完全に、カップル状態だ。
 僕と相田先輩は、近くの茂みに隠れてその様子を見ている。
 完全に、デバガメ状態だ。
 缶ジュースが飲み終わった頃、急に洸河が話すのをやめた。
 遠藤さんもチャンスとばかりに話を切り出そうとすると、洸河はサッと遠藤さんの口を右手で塞ぎ、ゆっくりと首を横に振った。
 それからその手を滑らすように遠藤さんの頬に添えて、顔を近づけていく。
(そうは、させるか!)
 僕は茂みから飛び出して、二人の前に立ちはだかった。
 洸河の動きが止まり、視線だけが僕のほうを向く。
「彼女から手を離せ!」