「それでも高校三年生としてやらなきゃいけないことは沢山あるわけだしね。補習とか再テストとかさ」
 確かに僕も卒業だけはしてほしい。
「俺は今後の君たちの事を考えて言っているんだよ。いつまでも俺に頼らず、君たちのような新しいニュージェネレーションにがんばって欲しいと心を鬼にしてチヒロの谷から我が子を突き落とす獅子のように、涙を呑んで言っているんだ」
(先輩が飲んでるのはイチゴ牛乳でしょ)(いつ先輩に頼ったことがあるんですか?)(新しいとニューって同じ意味です)(チヒロじゃなくて『千尋(せんじん)』だろ)(卒業あぶねぇ)とツッコミどころが満載過ぎて、どこから言っていいのかわからない。
「でもまぁ、この劇団演劇部がちゃんと形になるまではしっかりサポートしてやるから安心したまえ」
と、先輩は最後まで自分ワールドを突き通した。でも今の状況では目標が一人増えようが、二人増えようが関係ない。とにかく手当たり次第に弱小部にいた生徒をあたって行くしかないのだ。
 相田先輩がおもむろに右手を差し出し、遠藤さんがその上に右手を乗せ、僕もそれに合わせた。
「劇団演劇部ー!」
「ファイ、オー!」
 円陣というより三角陣で、先輩のノリノリのコールに遠藤さんも一緒になってやっていたけど、僕は屋上にいる他の生徒の目が気になってしまい、小声で言っただけだった。
 それから一週間。
 僕たちは全力を尽くして仲間集めに没頭した。昼休みや放課後など空いている時間をフル活用し、廃部リストに載っている生徒に声をかけまわった。
そして、声をかけた生徒のリストの名前に付けていたレ点がすべて埋まった。
 収穫、0人。
 まさかここまで酷い結果が待っているとは思わなかった。
声をかけた大抵の生徒の反応は、最初に声をかけた元天文学部の坂上さんと同じような感じで『演劇』という言葉を聞くだけで、拒否反応を起こしていた。
 いくつかの文化部と同好会は遠藤さんの予想通り、アイデアだけを盗まれるという行動に出てしまい、運動部や残りの人は既に他の部活に入ってしまっていたり、真剣に話を聞いてはくれても、いざ加入となると言葉を濁したりした。後半はダメ元で三年生のところを回ったり、相田先輩が勧誘に行った人のところへ僕と遠藤さんでもう一度行ったりもしてみたが結果は同じことだった。