そもそも本を人より読まない僕は、当然のごとく図書室も図書館もあまり行ったことがないので、まずどこから探していいのかわからなかった。普通に考えれば、本の貸し出しのほかに案内役も務めているカウンターの中にいる図書委員に聞くのが正しいのだろうけど、これまた静かに本を読んでいる彼らにどのタイミングで声をかけたらいいのか全くわからなかった。
 しょうがないので絨毯の上をそそくさと歩き、出入り口の一番近くにある辞書の本棚からから順々に探していった。見慣れない活字の連続にうんざりしつつ、今日中に本が見つかるか不安な気持ちで文庫本のコーナーに差し掛かったとき、知っている顔を見つけた。
 昨日のアホ洸河に勝るとも劣らない顔の持ち主で、生徒会の連中とは違う印象を持つ細い銀縁眼鏡をかけた男子生徒は、僕のクラスにいる御手洗君だった。
 御手洗君もあまりクラスに馴染んでいない生徒だけど、僕とは理由が違った。休み時間は常に一人で本を読むような文学青年だが、「クールで近寄りがたい」という良い意味のレッテルが貼られていて、数人の女子の間では隠れファンなるものまで存在するという何とも羨ましい存在だ。
 僕が話しかけるか悩んでいると
「あっ、栄斗君だよね」
と、御手洗君のほうから声をかけてきた。
「始めて図書室でうちのクラスの人間に会ったよ。君はどんな本を読むんだい?」
 これは困ったことになった。どうやら彼は僕を『同じ本好き仲間』と捉えてしまったらしい。
「いや、ちょっと今日は調べ物をしに、ね」
 半笑いで僕が答えると
「ああ。そういえば、最近遠藤さんと二人でなんか面白そうな行動を取ってるよね。もしかしてそっち関係かな?」
 自分のこと以外は全く興味が無さそうなのに、見ているところはしっかり見ている。ちなみに彼は頭も良く、入学試験ではトップの成績を残し、入学式の新入生代表挨拶もしていたらしい。らしいというのは、もちろん見てないからだ。
 正直そんな『聡明』という言葉がパリコレのモデルほど似合う御手洗君に、僕が本好き青年ではなくアンダーグラウンドな演劇目的だと思われるのがちょっと気後れしたけど
「…うん、実はそうなんだ」
と正直に言うと、それ以上なんの説明をしなくても
「じゃあ、演劇関係かな」
と瞬時に理解し、手に持っていた文庫本をパンッと閉じて足早に歩き出した。