鈴木君は僕の言葉の端々に「ほうほう、それから?」「するってぇと?」などの小気味良いの手を入れてきて、いつの間にか僕のしゃべり方もだんだん落語口調になっちまってきて、終いにゃあどっちが落語研究会かわかんねぇ具合になっちまってて、伝わってんだかどうだかわかんねぇってな感じだった。
「なるほどねぇ。そちらさんの言い分はよくわかりました。そいつはグッドなアイデアだ」
 どうやら伝わったらしい。
「じゃあ」
 遠藤さんが身を乗り出すと鈴木君は内ポケットから出した扇子をパッと広げて
「うちの落ち研もそれでやらせていただきますよ」
と、この作戦の弱点を見事に突かれてしまった。さすがは落語好きといったところだろうか。言葉の裏を読むのが上手い。
 がっかりする僕らに鈴木君は
「あたしが演劇をやるわけにゃいきませんが同じ生徒会に根を持つもの同士、共同戦線ってことで先輩にも話をしておきますよ。まっ、仲良くやっていきましょ」
と調子のいいことを言って帰っていった。それから他の教室もまわってみたが、その日はもうみんな帰ってしまった後だった。
 次の日の昼休み、僕は昨日取り逃した薙刀部の井上さんの所に行く遠藤さんとは別行動をして一人図書室に来ていた。
 今いる劇団演劇部の二人に比べて僕の演劇知識はないに等しい。そこで図書室に行けばいくつか演劇の本が置いてあるのではないか、という生徒想いな担任の山崎先生のアドバイスを受けてここに来たのだ。
 生徒会室より重い扉を開けると、中学校のとは比べ物にならないほど広い図書室に僕は圧倒された。
 入り口近くに貸出し用の受付カウンターがあり、後ろには「私語厳禁」と大きく書かれたポスターと利用規約が書いてあった。その向かいからズラリと本棚が並んでいて、奥に本を読むための長机と椅子が置いてあり、更に奥の扉から個別に机が分けられている自習室に行けるようになっていた。
 屋上で過ごす遠藤さんとの甘いひと時をぐっと堪えて急いで弁当を食べてから来たのに、図書室はすでに多くの生徒が利用している。
 それにしても何て静かな空間なのだろう。人が沢山いるはずなのにページをめくる小さな音しか聞こえてこない。扉の中と外とでは完全な別世界。廊下や屋上で騒いでいる生徒がなんだか俗っぽく思えるほどだ。