演っとけ! 劇団演劇部

 動揺する暇もなくコンビニのパンを持ち、小走りで遠藤さんに追いつくと彼女の横顔が一瞬曇っているように見えた。僕が横に来たことに気付き、笑顔になる遠藤さんに思わず
「大丈夫?」
と聞くと、彼女は更に無理した笑顔を作り
「うん。まずはご飯食べて元気にならないとね。腹が減っては何とかって言うでしょ」
と、手に持っているお弁当を刀に見立てて振り回した。
 遠藤さんはどこまでも前向きだ。男の僕が先に泣き言を言っては格好がつかない。きっと何か手があるはずだ。サクセスストーリーは0.01%の可能性でもあれば、成功してしまうのだ。現実で起こるサクセスもある。サッカードラマの裏番組では『奇跡の生還、犯人逮捕、大脱出! 世界の奇跡大発表!』という海外のCIAだかFBIだかの過去に起こったウソのような本当の事件を取り上げた番組がやっていた。現実にだってドラマや漫画みたいなことは起こるのだ。
  僕はジャムとマーガリンの挟まったコッペパンを剣に見立てて遠藤さんとチャンバラの真似事をしながら部室に向かった。しかし、部室の前まで着くとウソのような現実が悪い方面で起こっていた。
 ガチャガチャ、ガチャガチャ。遠藤さんが部室の鍵をドアノブにさし右に左にどんなに回そうとしても動く気配がない。
(やられた)
 生徒会はみんなが全校集会で集まっている朝のうちに鍵の業者を呼んで、部室の鍵を変えていってしまったのだ。
「そんな」
 何度もドアを引っ張る遠藤さんの力が弱くなっていく。生徒会の迅速で無慈悲な行動に腹が立ってきた僕は
「行こう、遠藤さん」
と彼女の腕をつかみ、再び生徒会室のドアを開いた。
「何だね、ノックもしないで」
 生徒会員は昼休みにも関わらず、全員部屋に揃っていた。きっとクラスに友達がいないからだろう。でもそんなこと今はどうでもいい。
「今、部室に行ったら鍵が変えられていたんです」
「ああ、そのことか」
 國井生徒会長はから揚げをつまんだ箸を置き
「で、古い鍵を届けに来てくれたんだね。ご苦労様」
と手を差し出した。
「ふざけないでください!」
 その手を上から叩こうとしたのを予測され
宙を切った僕の手がバンッと机を強打した。