「どうして先輩が反対勢力にならなかったんですか?」
という僕の質問は
「俺に組織は似合わない」
といった体内細胞さえも否定しそうな返答に納得せざるを得なかった。
 それからどうやって帰ったのかは正直よく覚えていない。気がついたら、家でテレビを見ながら晩御飯を食べていた。
 テレビの中ではマンガを原作にした連続ドラマがやっている。弱小サッカー部が全国大会で優勝しないと廃部になってしまうところから徐々に強くなっていくサクセスストーリーだ。現実はドラマやマンガみたいにうまくはいかないものだ。うまくいかないからこそこういう話が物語になるのかもしれない。
非現実的なことを現実に持ち込むのはそれこそ舞台の上で成り立たせるしかないのだろうか。でも生徒会が舞台に上がってこない今となってはどうすることも出来ない。
演劇部復活の可能性の芽は完全に絶たれてしまったのだ。
全校集会が終わって教室に戻ってからも僕は遠藤さんに声をかけることが出来ないでいた。
なんて声をかけていいかわからなかったからだ。遠藤さんも僕に声をかけてはこなかった。きっと昨日の不甲斐ない僕にがっかりしているのだろう。
これで僕の高校時代におけるちょっと変わったエピソードは終わりだ。何週間か経てば僕が演劇部にいたことも自然とみんな忘れ始め、普通に平凡な学園生活を3年間繰り広げることになるのだろう。そして遠藤さんとも疎遠になり、2年生のクラス替えで離れてそれっきりだ。何年か後にクラス会があっても
「そういえば、演劇部に二人で入ってたよねぇ」なんて会話を2,3交わしておしまい。僕は(ああ、あの時はあんな可愛い子に片思いをしていたなんて、分相応な想い違いも若かったからなんだなぁ)なんてしみじみ思ったりなんかして
「エイト君、お昼食べに行こう」
 そうこんなことを言われる夢を見ていた15歳の春。
「エイト君ってば」
と遠藤さんに肩を揺すられて、僕はやっと現実に戻ってきた。
「えっ、ああ、うん」
 朝のことは何もなかったかのように声をかけてきた彼女は、僕が返事をしたことを確認するとすぐに教室を出て行った。