「だとしたら話は終わりだ。演劇部の廃部は免れない。以上」
 國井生徒会長はその言葉を待っていたかのように告げると、椅子に座りなおし机の上にあるファイルの一つを開いて別の作業をし始めた。
 横にいる遠藤さんの表情は怒っているようにも泣いているようにも見える。ここで黙っていては男じゃない。
 僕は一歩前に出て生徒会の役員が使っている長机をドンッと叩いた。
「わかりました。あと一週間以内に相田先輩を抜かしても3人以上の部員を集めます!」
 僕の声が生徒会室の中に響き割った。響き渡ったはずなのだけど
「小林君、修正液あるかい?」
と國井生徒会長は眼鏡の下僕Aに向かって話しかけていた。
「じゃあ、春の大会で優勝します!」
「会長の机の奥にありませんか?」
「ああ、ごめん。あったよ」
 下僕Aと國井生徒会長のやり取りが続いている。
「あわよくば、全国制覇を!!」
 僕の声が空しく響き、パソコンのキーボードを打つ音だけが返事をしている。どうやら僕は完全に無視されているらしい。
「もういいよ、行こう!」
 僕は遠藤さんに腕をつかまれ、そのまま生徒会室を後にした。
 とぼとぼと演劇部の部室に戻ると、相田先輩が陽気に出迎えてくれた。ここまで状況も空気も読む気がないと腹も立たない。
「ダメでした」
と普通に報告を終えると、僕も遠藤さんもがっくりと椅子に座り崩れた。
生徒会が入れ替わってから演劇部を新たに作るにも、うちの学校は生徒会選挙が十一月という遅い時期に行われるため、それまで何もできなくなってしまう。
相田先輩の話では、一年半前に今の國井生徒会長の体制になってから大人しい校長を巧みに利用して、より良い学園生活(だと本人たちが思っているのがまた始末に困る)を目指して2期連続で生徒会に君臨しているのだという。去年の選挙で反対勢力が現れなかったのは、他に誰も生徒会という面倒くさい役職に付きたくなかったからだそうだ。