とりあえず遠藤さんのことじゃないからまだ黙っていよう。それに言われなくても演劇部は辞めるつもりだ。というか、僕は生徒会に推薦されないのか。
「棚の中にもいません」
 僕らのやり取りの最中に下僕AとBは、左右の戸棚を一つずつ開けて中を調べていた。
「ふん、また逃げられたか」
 どうやら生徒会長も苛立っているらしい。(そういえば、生徒会が演劇部にどんな用があるっていうんだろう?)
かなり気になったけど、遠藤さんに聞ける雰囲気では全くなかった。相田先輩とのことはもっと聞けそうにない。
「誰が逃げてるの?」
 そこに緊迫した空気を一切感じない相田先輩がいきなりロングヘアのお姉さんの後ろから現れた。
 お姉さんはキャッという小さな悲鳴と共に國井会長の後ろに回りこんだ。
「大丈夫かい、窪田さん」
「セクハラです、セクハラ」
 生徒同士でもセクハラは発生するのだろうか。窪田先輩を庇うように立つ國井会長が相田先輩を睨んだ。
「何もしてないのにセクハラとはヒドイじゃないか、絵梨ちゃん」
「うるさい、生徒会副会長になれなれしい口を聞くな!」
 今までクールだった國井会長が相田先輩の出てきた途端に息を荒立たせている。
 髪型以外の背格好は似ている二人だが話は全く合いそうもなかった。
「ていうか、何か用?」
 さすが相田先輩。緊迫した雰囲気を物ともせず聞きづらい事をずばりと言ってくれる。
遠藤さんもこの強引さに引かれたのかもしれない。男は少しくらい強引なほうがモテるって何かの雑誌にも書いてあった気がする。
「何か用だと?」
 國井会長の体がプルプルと震え
「お前、本当に覚えてないのか!」
と叫んでも
「何が?」
と、今にも鼻くそをほじくりそうな間抜け面を続ける相田先輩。相手をイラつかせるためにわざとやっているのだとしたら、そうとうな役者だ。
「…今日の昼休みに生徒会室に来いと、ちゃんと伝えただろう」
 国井会長も少し疲れてきたみたいで、声の張りがなくなってきた。
 完全に先輩のペースだ。
「ああ、そうだったっけ。でも、あれって金曜日に言ってたやつでしょ? 土日挟んだら忘れちゃっても、しょうがないよね」