不安げな声で僕が聞くと、遠藤さんはパイプ椅子を出しながら笑って
「違う、違う。ここはみんなで次にやる芝居を話し合ったり、大道具の倉庫だったりするだけだよ。練習はいつも校舎の裏庭とか屋上とかね」
 そう言われてみれば、中学の演劇部もそんな感じだった気がする。放課後になってサッカー部の練習中にも、どこからか声が聞こえてきていた。
普通に存在していた部活のはずなのに、興味がないと全く印象に残らない。きっとサッカー部も他の人から見れば、そんな感じだったのだろう。
「今は部員少ないから私も私物化しちゃって、体育授業はここで着替えちゃうし、昼休みもここでご飯食べてるんだよ。あっ、エイト君も明日からここで一緒に食べようよ」
 倒れそうなくらい嬉しい誘いだけど、素直に喜べない。僕は話を逸らすべく
「そういえば今、部員って何人くらいいるの?」
と、何となく聞きそびれていた質問をした。
「えへへ、三人」
 遠藤さんは申し訳なさそうに指で『3』と出しながら答えた。
「じゃあ、遠藤さんと(彼氏の)相田先輩ともう一人いるんだ?」
「ううん」
 遠藤さんは首を横に振って
「エイト君を入れて、三人」
―痛い。
 自ら地雷を踏んでしまった。それじゃあ今まで二人っきりでこの部室を使っていたということじゃないか。
「そ、そうなんだ」
「うん。だから、エイト君が入ってくれたことがホント嬉しくて」
 彼女の笑顔も本当なのだろうか。何気に邪魔者だと思っているかもしれない。
誰も通らない廊下の奥にある演劇部室の中で放課後に二人っきりなんていうことが許されていいのだろうか。
僕の魂は既に地球の中心まで沈みこんでいた。ここまで来たらはっきり彼女の口から真相を伝えてもらおう。そして演劇部も学校も辞めて、明日から普通の無職の人になろうじゃないか。
小さく深呼吸をして彼女に声をかける。
「あ、あのさ」
 コン、コン、コン。
「はい」