みんな彼を見て見ぬ振りをしながらも、しっかり観察していたのだ。
ギャラリーには気を取られないといった彼なりのスタンスだろうか。歓声に照れながらも、彼は構わずまた怪しい動きを続け始めた。
拍手が切れ始めたころ、不自然にみんなの手を叩く音が急に止まった。
それと同時に、僕も止まった。
木陰から赤い髪が出てきて、ゆっくりとカンフー男のほうへ近づいていることに誰もが気付いたからだ。
(うわぁ、相田先輩だ)
屋上中の生徒が固唾を呑んで見守る中、僕は静かに出口に向かった。このあとの成り行きは気になるけど、ここであの人に見つかるわけにはいかない。
「あっ、エイト君!」
先輩の声が屋上にこだまする。振り返ると相田先輩に注目していたはずの生徒の視線が全て僕に集中していた。案の定、先輩は手を振りながら近づいてくる。
「レイに聞いたよ。やっぱり入るんだってな演劇部!」
僕の血の気の引いていく音が聞こえた。
他生徒が身を引いていく音も聞こえる。
相田先輩が僕の肩に腕を回し
「なぁ。あいつ、いいと思わないか?」
と完全に身内のような口ぶりで、話しかけてきた。
「…いいって何がですか?」
僕が観念して相田先輩の話を聞くと
「何って。あの拳法家を演劇部にどうかってことだよ」
と、まだシャドーカンフーを続ける生徒を親指で差し示した。
「む、無理に決まってるじゃないですか」
「そうかなぁ?」
やっぱりこの人は何を考えているのかよくわからない。
それよりも気になったのは、さっき遠藤さんのことを軽々しく『レイ』とか言っていたことだ。一昨日の彼女の話では、親と女子にしか呼ばせたことがないと言っていたはずなのに、どういうことだろう。
(まさか二人は!)
とんでもない考えが僕の脳裏をよぎった時昼休み5分前のチャイムが鳴った。
5,6時間目の授業中はずっと相田先輩と遠藤さんが付き合っている想像で、頭がいっぱいになって勉強どころじゃなかった。
下駄箱で見た告白も付き合っていたから断るとわかっていたのではないか。そう考えると全てつじつまが合う。あんなかわいい子が演劇部に入るのも、相田先輩と付き合っているからに違いない。
ギャラリーには気を取られないといった彼なりのスタンスだろうか。歓声に照れながらも、彼は構わずまた怪しい動きを続け始めた。
拍手が切れ始めたころ、不自然にみんなの手を叩く音が急に止まった。
それと同時に、僕も止まった。
木陰から赤い髪が出てきて、ゆっくりとカンフー男のほうへ近づいていることに誰もが気付いたからだ。
(うわぁ、相田先輩だ)
屋上中の生徒が固唾を呑んで見守る中、僕は静かに出口に向かった。このあとの成り行きは気になるけど、ここであの人に見つかるわけにはいかない。
「あっ、エイト君!」
先輩の声が屋上にこだまする。振り返ると相田先輩に注目していたはずの生徒の視線が全て僕に集中していた。案の定、先輩は手を振りながら近づいてくる。
「レイに聞いたよ。やっぱり入るんだってな演劇部!」
僕の血の気の引いていく音が聞こえた。
他生徒が身を引いていく音も聞こえる。
相田先輩が僕の肩に腕を回し
「なぁ。あいつ、いいと思わないか?」
と完全に身内のような口ぶりで、話しかけてきた。
「…いいって何がですか?」
僕が観念して相田先輩の話を聞くと
「何って。あの拳法家を演劇部にどうかってことだよ」
と、まだシャドーカンフーを続ける生徒を親指で差し示した。
「む、無理に決まってるじゃないですか」
「そうかなぁ?」
やっぱりこの人は何を考えているのかよくわからない。
それよりも気になったのは、さっき遠藤さんのことを軽々しく『レイ』とか言っていたことだ。一昨日の彼女の話では、親と女子にしか呼ばせたことがないと言っていたはずなのに、どういうことだろう。
(まさか二人は!)
とんでもない考えが僕の脳裏をよぎった時昼休み5分前のチャイムが鳴った。
5,6時間目の授業中はずっと相田先輩と遠藤さんが付き合っている想像で、頭がいっぱいになって勉強どころじゃなかった。
下駄箱で見た告白も付き合っていたから断るとわかっていたのではないか。そう考えると全てつじつまが合う。あんなかわいい子が演劇部に入るのも、相田先輩と付き合っているからに違いない。


