演っとけ! 劇団演劇部

この間ちゃんと話してみてわかったことだが、彼女は外見が良いという他にも人に嫌われない身のこなし方というものをマスターしている。男子はわかり易い外見だけで充分だけど、女子はそれでは済まない。男子に人気があるがゆえに無駄な嫉妬をかってしまったりするからだ。だけど、彼女は女子にも人気のあることがよくわかる。気の使い方というか、ちょっとしたことが自然にできるのだ。気さくで話も面白いし、嫌われようがない。
 でも僕は違う。僕は普通なのだ。普通の人間は特出するとつま弾きにされる。そして、今まさに僕はそうされようとしていた。というか、もうなっていた。
 次の休み時間から、僕に話しかけてくるクラスメイトはいなかった。かろうじて小島君が相手をしてくれるけど、席替えがあったら終わりだろう。今日の放課後に演劇部に入部したら何よりの決定打だ。押し出し満塁ホームランだ。
(どうしよう)
 僕はもう一度、演劇部に入るかどうかを考え直すべきか悩んでいた。ここでわざと空振りすれば次の回で逆転されることがあるかもしれない。しかしそれは、遠藤さんとの約束を裏切るという最低の行為だということも、覚悟しなくてはいけなかった。
 一緒にご飯を食べようなどと言ってくれる友達がいないと決め付けた僕は、昼休みになると、すぐに屋上に行った。
 あまり特色のない我が松葉野高等学校が『自由な校風』と並べてウリにしていたのがこの屋上で、五階建ての校舎全体を使った広い敷地に人工芝が植えられ、木まで生えている。高く張り巡らされた金網に沿って、ベンチが要所要所に置かれ、ちょっとしたオシャレな公園のようだった。
僕が四階の教室から屋上に上がると、早くから遊んでいる生徒や数人でお弁当を広げている生徒、僕と同じように一人で昼食をとっている生徒も少しいた。
僕がベンチの一つに腰をかけてコンビニのおにぎりの包装を開けていると、赤い髪の誰かに似た感じでズカズカと屋上に入ってくる集団が見えた。
その集団は一直線にボール遊びをしている生徒たちの前に向かっていき
「君たち!」
と、屋上の生徒を注目させるくらいの声で話しかけた。
「屋上でのボールを使った遊戯は禁止されているはずだが?」