長い間、キルバルに仕えている彼女にも、きっと祈願があるのだろう。

陰謀渦巻くこの王宮でずっと主を護り、生き抜いて来た人だ。

人を見る目は確かだろう。


「ソル様、一時の間、ご無礼をお許しください」


「えっ?」


ステーシアは微笑むと、ソルをギュッと抱き締めた。

その暖かな温もりに、トエトを思い出す。

幼い頃、何度もこうして母親の代わりに抱いてくれた。


(.......暖かい)


「ソル様、落ち着かれましたらお茶に致しましょう!先程、珍しい菓子と花が届けられましたので」


「.......はい」


あれ程動揺していた心は、いつの間にか落ち着きを取り戻していた。

机に置かれた菓子は、とても可愛らしく目を楽しませてくれると同時に、香ばしい甘い香りが食欲を連れて来る。

そう言えば朝から何も口にしていない。

緊張で何も喉を通らなかったのだ。


「.......美味しい。こんなお菓子は初めて。疲れている時に食べたら、一気に疲れが吹き飛びそう!」


「ソル様が好むだろうと、そこの花と共に届けられました。先程の東屋の近くで摘んできた物だとか」


ステーシアがソルを見てニッコリと微笑む。


「そっそう.......。それならば今度、御礼を言わなきゃね.......」


ソルはそう言って、赤くなった頬を両手で抑えた。