「おい、アルツァ!お前余計な事を申すな!母上の前で恥をかいたではないか!」


「私はソル様の事を見た通りに話しただけ、キルバル様の事など申しておりません」


「フンッ!減らず口め!!」


飄々とした顔で控えている側近に、いつもキルバルは口では勝てない。

反撃を諦めたキルバルは、懐かしい庭園に目を向けた。


「ここも久し振りだ。少し庭を散策して帰る」


「はい」


庭園を歩いて行くと緑の中に色とりどりの花が咲き乱れ、わざと自由に咲かせている花園は一瞬何処かの森に迷い込んだ様な気分にさせる。

昔はよくここでアルツァと遊んだものだった。


「思い出すな.......」


「はい、よくここでキルバル様と過ごしたものです」


「ここだけは変わらないな」


「もう少し行くと、ロメエル様のお気に入りの東屋がありますが、行かれますか?」


「あぁ、父上と母上のよく過ごされていた所か。行こうか」


アルツァが先立って歩いている後ろを着いていくと、途中で先の足が止まった。


「どうした?」


「何やら東屋には先客が居られる様ですが、如何致しますか?」


「先客?」


植木の陰からそっと覗き見ると、キルバル達からは背を向けるように娘が座っていた。

隣には侍女を従えている。


「顔を合わせると面倒くさい。部屋に戻る」


「.......お待ちください。あれはステーシアの様でございます。なれば、あの娘は.......」


小枝を掻き分けて覗いてみると、東屋の中でソワソワと落ち着かない娘と、ステーシアが見て取れた。

今朝の事を思い出すと、やはり腹立たしい思いが湧き出てくるが、だからと言ってこのまま部屋に帰る気分には少しもならなかった。


「アルツァ、お前は先に戻れ」


「かしこまりました」


アルツァの背中が見えなくなるまで離れると、漸くキルバルは、東屋へと足を進めた。

怒りと期待が入り交じっている様な変な高揚感。


「こんな所にまで何しに来た.......ソル」