(...........声が近い...もう少しだ!!もう少しで前に出れる!!)


転がる様に人集りの先頭に躍り出た。


「コルー」


「退け...........邪魔だ」


ドンッ


冷たく低い声と共に、堅く大きな手に突き飛ばされる。

前のめりに倒れ込んだ刹那、鈍く重い突き刺さる音が、地面に這い蹲る自身の手に響いた。


「ぎゃああああああああっ!!!」


同時に地の底から響く様な無数の人の叫び声が、この場を包み込む。


(何?...何が起きた??)


「...........コルトー?」


恐る恐る声を掛けるけれど、怖くて顔を上げる事が出来ない。

身体もまるで石にでもなったかの様に、指の一本すら動かない。

冷や汗の様な冷たい汗が、身体中から吹き出す様に流れ出て行く。

息をしてる筈なのに、水中にでも潜っているかの様に呼吸が苦しい。

這い蹲った自分の手を、只ひたすら見ている事しか出来ないでいると、その指先を目指す様にして、赤黒いモノが流れて来た。


「...........何...これ....................」


顔を上げてはいけない...........自分の中の何かが大きく警鐘を鳴らしているのに、身体はゆっくりと動き出している。


見てはいけない………


ドクンドクンとやけに心臓の音が煩い。


(…嘘だ…そんな訳ない……)


流れた血を辿る様にして視線を前に向けた瞬間、目の前が真っ暗になって、そこで記憶が途絶えた。