翌日、帰りの会が終わるとすぐ、容子は私を校舎裏へと引っ張っていきました。

今日の授業は5時間目までしかなかったため、辺りはまだ明るく、夕闇が迫るにはまだ間があります。

けれど日の当たらない校舎裏は十分に薄暗く、私は早く帰りたい気持ちでいっぱいでした。


「夜になると、このアーチの向こうに庭園が現れるの」

容子は錆びた鉄のアーチを覗き込むようにしながら、私に言いました。

「庭園が現れるときは前触れがあるんだって。
アーチに巻きついている枯れた蔦が命を取り戻して、次々にバラの花を咲かせるの。
もちろん花壇も蘇って、緑にあふれるの。
バラのアーチの向こうには、月明かりの中に見たこともない花々が咲き乱れていて、甘い香りが風に乗ってこちら側にまで流れてくるんだって」

へえ、とそっけなく相槌をうった私に、容子は不満そうに口を尖らせました。

「信じてないでしょ」

「逆にあんたはどうして信じてるのよ」

薄暗い校舎裏に実は夢の国への入り口がある。

そうだったら素敵だな、とは思いますが、12歳の私はもうとっくにナルニア国もサンタクロースもフィクションだと知っていました。

怪談話のほうが、まだ興味をそそられるというものです。

いつまでも子供じみたファンタジーにしがみついる容子の心理が、純粋に疑問でもありました。