密集して咲く赤いバラの茎の中から、または分かれ道の角から、何かが飛び出しては来ないかと怯えながら進んで少し経った頃です。

道のはるか先に、ピンク色の動く影があることに気付きました。

容子の後ろ姿です。

「容子!」

私は反射的に走り出していました。

走るうちに赤いバラの花壇は終わり、小道の両脇は慎ましい白バラの花壇に変わりました。

それも終わると今度は白地に縁だけが桃色に染まる蠱惑的な花弁を持つバラ、
八重咲きのようにたくさんの花弁をつけるオレンジ色のバラ......

次から次へと違う種類のバラが私の目の前に現れては消えていきます。

今は確かに秋のはずですが、バラたちには私が想像していたような遅咲きの控えめさなどは微塵もなく、
今が盛とばかりに堂々と咲き誇り、あらん限りに己の存在を私に主張して来るのでした。