庭園に足を踏み入れた瞬間、外にいた時とは比べものにならないほどの鮮明なかぐわしさが私を包み込みました。

夜空には膨らみかけの半月が浮かび、青白く澄んだ月明かりを、色も形も様々なバラが花開く花壇の上に静かに注いでいます。

私はおそるおそる傍らの赤いバラに触れてみました。

花びらはしっとりと夜露に濡れていて、私の指先を冷やしました。

花壇の向こうには垣根や背の高い植木、小さな建物の影も見え、そのさらに向こうには、お城のような建物の屋根まで見てとれました。

図鑑で見たものよりもずっと広大な庭園には、甘美な静寂が満ちていました。

私以外に人の気配はまるでなく、屋外のはずなのに、虫の声や風の流れさえ感じないのが奇妙でした。

それでもこのどこかに容子がいるはずです。

私が入ってきたバラのアーチから、花壇の中へと白い石畳の小道が伸びていました。

私はゆっくりとその小道を歩き始めました。