遊具も木立もすべてが黒いシルエットにしか見えない闇の中を、私は時々足をもつれさせながら懸命に走りました。

目指すべき場所はわかっていました。

校庭に満ちる花の香りは、そこへ近づくほどに濃さを増していきます。

ようやく辿り着いた校舎裏には、あるはずのない景色が広がっていました。

朽ちていたはずの花壇には様々な種類の花が咲き、錆びたアーチは色を取り戻して、そこにしなやかな蔓が巻き付き、滴るような真紅のバラの花を咲かせていました。

色が判別できたのは、アーチの向こうから漏れる薄明かりが辺りを照らし出していたからです。

私はゆっくりとアーチに歩み寄りました。

本当なら、そこには暗い校舎の壁があるはずでした。

けれど私がそこに見たのは、月明かりの下にどこまでも広がる夜の庭でした。