バラの季節は主に春の終わりから初夏にかけて。遅咲きのものは秋頃から咲くものもある、とあります。

「夜の庭園」が本当にあるとしたら、今そこに咲いているのはこの遅咲きのバラだろうか、などと考えてみたりしました。

その時、開け放していた扉の前の廊下を誰かがバタバタと横切っていきました。

その誰かはどこかの教室の戸をガラリと開け、またすぐにバタバタと廊下を引き返してきて、図書室の中に私がいることに気付くと足を止めました。

「ねえ、立野先生知らない?」

扉からこちらに顔を覗かせたのは、校長先生でした。

立野先生は私たちのクラスの担任ですが、今日は家の用事があるとかで、「帰りの会が終わったら先生もすぐに帰っちゃうから」と言っていたはずです。

それを伝えると、校長先生は肩を落として手にしたファイルとにらめっこを始め、そのうち諦めたらしく私に向かって「ありがとうね」と笑いました。

「ああ......君、今日も残ってるのかい」

校長先生はそこで、私が昨日校舎裏にいた女子児童だと気付いたようでした。