「先生も、その話を知ってるんですか?」

私は意外に思って尋ねました。

夜の庭園だの、教えてくれた人の名前を口外しなければ迎えがきてくれるだの、容子の頭の中だけの話ではないかと半ば疑っていたからです。

「ずいぶん前に少しだけね。
でも、先生この学校にずいぶん長くいるし夜にここに来ることもあるけど、アーチの向こうに別の世界なんか見えたことないよ」

穏やかに話す校長先生のことを、容子は不満そうに見上げていました。

容子の夢物語を現実的に否定してくれた先生に、私は感謝しました。

そして容子に対しては、ざまあみろ、と思いました。

「さあ、もう帰りない。もうここに入って来たらダメだよ」

先生はさっきまでより強い口調でそう言い、容子の腕をやんわりと解かせました。

私はまだ恨みがましい目で校長先生を見上げる容子の腕を今度こそしっかり握ると、「さようなら」と早口で告げて校舎裏を後にしました。