俺が物心ついたときには、もうこんな感じだ。


ふと二人に視線を戻したとき、全く違う話題で言い争いをしていた。


「ごちそうさま…ってな。」


俺の声は、雑音の中へと消えていった。


だからといって、何も感じない。


秋に入ったというのに、二匹のうるさい蝉が鳴いてるな。


そんなことを、まるで他人事のように思いながら、音から遠ざかるようにリビングを出た。


「めんどくせーな。」


俺の部屋に入り、ため息交じりに呟く。


もう俺の家にはあたたかい家庭は存在しない。


いや、《もう》という言葉はおかしいか。


もともとそんな家族ではなかった。


母さんは、母さんだが母さんではない。


父さんも、父さんだが父さんではない。