9月13日。


瑠梨ちゃんの文化祭の日。


僕は朝から歌の収録でスタジオに篭っていた。


「なんかお前、今日すごい機嫌良くね?なんかあんの?」


休憩している時、一緒に収録をしている白い生地さんが唐突に僕に質問をする。


「実はね、行きつけのお店に高校生の女の子が働いてるんだけど、その子の文化祭が今日あって…久しぶりに会うし楽しみだなぁって!」


僕はワクワクした気持ちを隠さずに話す。


「あぁ…、結構前に行った喫茶店?だっけ?」

「そうそう。言い寄ってきたファンの子達から助けてくれた子が、実はそこで経営してる娘さんだったらしくて」

「あのグラス盛大に割った子?」

「その子その子」

「へぇ…。もしかしてだけどさ、お前、その子に気があるんじゃないよね?」



……



「一目惚れなんだ」


僕は素直に彼女に気があることを認めた。


「おいおい…仮にも成人した大人の男性が女子高生に恋しちゃいました〜とか、そんな事が表に出たらどうすんの?」

「僕達が口にしなきゃいい事だし…」

「いや、俺達が言わなかったりしたとしてもよ?万が一どっかから情報が流れて噂になるとするじゃん?俺達はネット上で生きてるんだからさ…すぐに噂が広がっちゃうの、目に見えるんだけど…」


確かにそうだ。


それで炎上でもしてしまったら周りの人たちにも迷惑がかかる。


酷い人なら、人物を特定して瑠梨ちゃんやそのお店に危害が及んでしまう。


「別に恋愛に年齢も職業も関係ないと思ってるけど、歌い手と言えばお前だっていうくらいの知名度だっていう自覚と、喫茶店で働いてる子は高校生で一般人っていうの、頭に入れといた方がいいんじゃない?」


ド正論を言われ、何も言えなくなる僕に気まずさを覚えたのか白い生地さんはポンッと僕の肩を叩き


「ま、成人しちゃってさっさと相手がいますって公表しちゃえば多少の批判はあるだろうけど、お前ならそんな事くらい屁でもないだろ。気を取り直して収録、頑張ろうぜ」


そう言い録音ブースに入って行った白い生地さんを、僕はずっと動けずにただただ見ていた。