「いらっしゃいませ〜」
もう今日はお客様が来ないと思ったのに…!
なんて思いながら入ってきたお客様を見る。
「…ってうお!?ふとんくん…!!」
驚きのあまり、ふとんくんと言ってしまった。
「ふと…?」
ふとんくんはキョトンとした顔で私を見つめてくる。
「あら、冬翔くんじゃない。いらっしゃい」
「こんにちは、佐々木さん。今日はお客さん居ないですけど…もう閉じるんですか?」
「そう思ってたんだけど…冬翔くんが来てくれたから。のんびりしてってちょうだい」
「ありがとうございます」
ふとんくんはお母さんにペコッと頭を下げると、いつも座るカウンターの端に向かった。
私はその様子をじっと見ていた。
「瑠梨、なにやってるの。お冷出してあげて」
「あっ…うん」
お母さんにそう言われ、急いでコップに水を入れる。
「えっと…お客様、どうぞ」
「瑠梨ちゃん。ありがとう」
ふとんくんはニコッと笑い、カウンターに置いたお水に手を伸ばす。
「ところで瑠梨ちゃん、さっきふとんくんって言ったよね…?」
その言葉に途端に汗が止まらなくなる。
さて、なんと言い訳しようか。
「えぇっと…………この前、学校の友人から呼ばれてたあだ名がふとんって聞いたので…印象的でつい…」
我ながら、ちゃんとした言い訳なのでは?と思う。
「あぁ…そんな事言ったかも。でも、瑠梨ちゃんにはあだ名じゃなくて名前で呼んでほしいな…?」
椅子に座っているからか、私を見上げるように見てくる。
これが上目遣い…可愛い…。
「……冬翔…さん…」
「うん、そうそう。よく出来ました」
相当嬉しいのか声のトーンがいつもより高い。
冬翔さんって言い方、呼び慣れとかないと…。
「ごめんね、最近忙しくて来たくても来れなかったんだ」
「あっ…いえ!お時間がある時にいつでもいらしてください」
「ありがとう。嬉しいよ」
来たいって思っててくれてたんだ…。
嬉しい…
「そうだ、文化祭っていつなの?」
ふとんくんが文化祭について話を振ってくれる。
「はい、9月の12と13の2日間です」
「そっか…ちょっと待ってね」
私が日付を伝えるとふとんくんはケータイを取り出しスケジュールを確認する。
チラッと見えたふとんくんのカレンダーは空白がほぼ無い。
忙しいのにわざわざここに来てくれてるんだ…。
「…時間は何時までか分かるかな?」
「えっと…まだ確かではないんですけど…、去年は朝の10時から16時までやってたので…今年もそのくらいかと」
なるべく明白な時間がわかるように、去年のを参考にしながら伝える。
ふとんくんは顎に手を当てながら考え込む。
やっぱり来れないのかな…。
「…13日」
「え?」
「13日の午後なら空いてるから…どうかな?」
13日……2日目って事だよね…?
「はいっ!大丈夫です!お待ちしてます!」
「良かった」
安心したのかホッとした様子で話すふとんくん。
「前のお仕事が長引くかもしれないけど…絶対行くから」
その言葉だけで嬉しい。
「はいっ…!!…あっ、実は2日目に後夜祭があって、私の学校は各々1人だけ学校の生徒じゃない人を呼べるんです…!良かったら…冬翔さんを呼んでもいい…ですか…?」
嬉しさのあまり、とんでもない事を口に出してしまった。
「…」
ふとんくんは何も言わず私を見つめる。
流石に引かれたかもしれない…。
やっぱりなんでもないです。そう言おう。
「あの…やっぱり…」
「瑠梨ちゃんが良いなら、是非呼んでほしいな」
「へっ…?」
「家族でもなんでもない僕を呼んでくれるなんて、瑠梨ちゃんは優しいね」
優しい笑みを浮かべながらふとんくんはそう話す。
「いえ…そんな…!」
「ううん、優しいよ。ありがとう。楽しみにしてるね?」
「…!はいっ!」
私は嬉しくて笑みを零しまくる。
傍から見れば私は気持ち悪い人だ。
でも楽しみなものは仕方が無い。
精一杯楽しんで貰えるように頑張らないと……!!
これから忙しくなりそうだ。