「あ、佐々木さん」


私の苗字をふとんくんが呼ぶ。


後ろを見てみると


「お母さん!」

「あんたの用事ってお客様に傘渡すことだったの?」

「う、うん…」

「へぇ〜?」


お母さんがニヤニヤしながら私とふとんくんを交互に見る。


「わざわざ持ってきてもらって嬉しいんですが…使うのが申し訳なくて…」

「あらそう?いい子なのね?なら雨が止むまで家にいたらどう?すぐそこだし。傘使わなくて済むし」


お母さんが突然とんでもない事言う。


「えっ…?」


ふとんくんが困惑している。


そりゃそうだ。私も突然言われたらそうなる。


あくまでふとんくんとの関係は客と店員。


「でも…」

「遠慮なんていらないわ。ほら、来てちょうだい。瑠梨も。」

「あ…うん」


私は返事をしながらチラッとふとんくんを見る。


ふとんくんは唖然としてお母さんを見ている。


すると、ふとんくんが私の視線に気がついたのか、私を見る。


「それじゃ、言葉に甘えて…」


ふとんくんは苦笑しながら言う。


「あはは…」


私も曖昧に笑い答える。


お母さんの後をついていくふとんくん。


濡れるのはまずいので、傘を開きふとんくんに差す。


「ん、ありがとう」


ふとんくんは傘を受け取る。


「瑠梨ちゃんも、こっち」


私を濡れさせまいと、ふとんくんは受け取った傘を持ちながら私に近づき傘の中に入れる。


距離が近い……。


心臓が破裂する…。


傘を差す時間はほんの一瞬だったけど、少し触れたふとんくんの腕と、私の肩の感触は永遠に残ってることは、言うまでもない。