「忙しかったようだね」と言いながら美智雄が先導して西口のパブに向かう、京子も遅れずにとやや早足になり並んで歩いた。
一目見て如何にもパブらしい店の入口から奥のテーブル席に直行し、「この席でよかったかな」と京子に聞いた。店の床全体に敷き詰められた、臙脂にいろんな色が入ったペルシャ絨毯の奥のテーブルに陣取り、膝にナプキンを少しずらして2つ折りにした。
若い店員がいらっしゃいませと挨拶をしてメニューを持って来た。
いろいろあるね、「京子さんお好きな物を、先ずはドリンクだね」と美智雄がメニューを指差した。美智雄は専らビール党、偶にはワインを飲むが、やはり最初はビールで、「京子さんはワインかな」と言い慣れた口調で京子に聞いた。最近の女性はビールは余り飲まずにカクテルやワインを飲む事が多いようだが。京子はメニュードリンクの欄を見て、「今日は先ずはこのキールにしようかな」とメニューを指差した。「それはどういうカクテル」と美智雄が店員に聞いた。店員が答える、「白ワインにカシスが入っていてそんなにアルコール度数は強く無く上品な味わいで飲みやすいですね」美智雄はカクテルは殆ど飲まないからカクテルの違いを京子に聞いてみた、「カクテルも好きだね」京子は被りを振り、「今日はこの妖艶な赤紫が気に入って」マンハッタンやマティーニは有名だそうだが、度数が強いらしい。
その後は、今までも会う毎に散々話してきた二つの会社の話をした。特に保証会社の事は二人共知っているから、人や仕事の話題などで話は盛り上がった。
京子が言った、「このパブの食事も美味しかった。美智雄さんと食事をするのは本当に楽しいわ」
美智雄は、そう言った京子の目を暫くじっと見ていた。
京子の色白の顔が一層透き通って見え黒い髪を際立たせていた。
美智雄は時間が止まったかのように暫く何かを考えていたが、思い切ったように言った、「何か夜景の見えるホテルに行きたくなったな、まだ時間は有る?」
京子は整った人形のような表情に変わり、「ホテル・・いいわ、綺麗な夜景が見えるところがいいな」
パブを出ると師走を身近に控えた新宿の街は意外に落ち着いていた。
美智雄が都庁の方を指差して言った、「ワシントンホテルがいいかな」
25階でドリンクを飲みながら見る新宿の夜景は綺麗だ。
美智雄が夜景を眺めながら言った、「本当に、綺麗だ」