「笑え」


自由にしてくれていいと言ったのは何だったのか。

塁は辟易していた。

圭が命じるのは、あっち向け、こっち向け、座れ、立て、そして「笑え」。

指示が飛びながら四方八方からカメラを構えられる、塁にとって始めての体験だった。


「笑っていますよ」


にこっと、最大限のスマイルをつくり、レンズの向こうの圭に答えた。


「そんなのはいらない」


塁がムッとするのをおかまいなしに圭は続けた。


「そんなのは笑顔じゃねーよ」


「いつも友達といるときにそんな顔で笑ってるのかよ」


「目が笑ってねんだよ」


言いたい放題だ。

塁は泣けてきそうになった。


(友達といるときだって、今だって、私は私だし、何も変わらないのに、何でここまで言われなきゃなんないの)

 
私はいつもこの顔ですよと言い返そうと口を開きかけたが、圭の言葉はその先を行っていた。


「つくってるんじゃねーよ」